「行動経済学」の覚え書き
『行動経済学』友野典男 2006 光文社新書の第7章まで読みました。
ヒューリスティックス、プロスペクト理論、時間選好がここまでの内容で、あとは利他性で別の話になりますから、とりあえずここまでで一段落です。なにげに時間選好の話が最新情報を含んで面白かったです。
ヒューリスティックスは効用を経由しない簡便な意思決定方略ですし、プロスペクト理論は参照点に依存する価値関数で効用関数を書き直す試みですし、時間選好は効用の割り引き率を再考する話ですので、いずれも効用概念の再検討というくくりで整理できるでしょう。実際、時間選好の章は効用を3つの効用概念(経験効用、記憶効用、決定効用=予測効用)に分割する話で締めくくられていました。
このうち、時間選好(目の前のケーキと将来のダイエットのどちらを取るかと言った問題)の章に登場した時間解釈理論は2003年の論文でもっとも新しくてもっともラジカルな考え方だと言えるでしょう。人間、物事のいろんな側面に注目して意思決定をしますが、先の事と目の前の事では注目する側面が違うという考え方です。
例えば、目の前にケーキがないときには健康や美容のためのダイエットの必要性を意識してケーキなんか食べるまいと思っていても、いざ喫茶店に入ってメニューに並んでいるイチゴショートケーキや洋なしのタルトやアプリコットのムースの写真を見ると、生クリームの甘さや果物の酸味やプルンとした食感が浮かんできて、健康や美容の事を忘れてしまうという事をよく体験します。
時間解釈理論を提唱するトロープとリバーマンは、人間は物事が時間的に先の出来事である場合は抽象的な側面(例えば健康や美容)に注目して判断するが、時間的に目の前の場合には具体的な側面(例えば味覚や触覚)に注目して判断するために同じ物事であっても評価が変わるのだと主張しています。ダイエットの決意が揺らぐのはこうしてケーキを食べる事の評価(=効用)が変化するためだ、というのが彼らの考え方になります。
このように物事にいくつかの側面があるときに、どの側面に注目するかが時と場合によって変わるために、物事に対する評価(=効用)が刻々と変わるという考え方は、非常に自然な考え方ですが、従来の効用理論にはない考え方で、おそらく効用理論のかなり根本的な再編成を要求するものになるような気がします。今後の展開に注目したいと思います。
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