中国鉄道大紀行 その40 南宋の茶碗

5月23日も福建省を旅します。移動距離は約60km。中国シリーズ最短かも知れません。
10:17三明(さんめい)発。前日しょう平から、前々日龍川から乗ってきたのと同じ列車です。一度途中下車すると、なかなか次が来ないんでしょうかね。まあ、関口さんもお疲れでしょうから終盤はゆっくり進んでいるのかもしれません。
16両編成の長い列車が沙渓(さけい)のほとりをゆっくり走って行きます。ダムでもあるのか、広い川幅で川もゆったり流れていきます。
「日本の方ですか」
関口さん、向かいの女性にいきなり日本語で話かけられました。かなりビックリしています。
「東京に住んでました」
と隣りの男性。えっ、あなたも!と関口さんさらにビックリしてました。東京の西日暮里で18年間弁当屋をしてたそうです。道理で日本語がお上手ですが、こんな所で「西日暮里」なんてローカルな地名を聞くと、一気に福建省が身近に感じられます。
2時間半ほど、梅干しを食べたり日本食談義をしたあと、12:50南平(なんぺい)着。京王線に南平(みなみだいら)なんて駅があるので、なんとなく親しみがもてます。ここは南宋の頃、陶器の生産が盛んだった街として知られています。ここの陶磁器研究所を訪ねました。
「はじめまして。よろしくお願いします」
研究所の入口で関口さん、またまた日本語で挨拶をされました。所長さんの娘さんで、大学で日本語を専攻してるとのこと。それにしても「ワンちゃんが吠えてすみません」とか「パパのお手伝いで日本語を勉強しました」とか、実に自然で流暢な日本語で驚きです。余程、勉強してるんでしょうね。
ここでは南宋時代の茶碗の再現を目指して研究をしてるそうです。「パパ」こと所長さんに作品を見せて頂きました。どっしりと重い茶碗は深い光沢をたたえ、内側には青く輝く美しい斑点が‥。斑点の回りは青銀色の光を放ち、星雲のなかに星が煌めくようです。
「見事な‥」
関口さんも声を失って見入っていました。
「曜変天目」という種類の陶器で、「曜変」は「窯変」つまり窯のなかの偶然の作用で「曜」すなわち星の光のように釉薬(うわぐすり)が変じたことを意味します。「天目」は黒い塗り薬のことで、夜空にボーッと星が輝くような神秘性を持つ一品です。条件を整えて最善を尽くした上で、偶然できるのを待つしかないため非常に貴重で、南宋時代の作品は留学僧が日本に持ち帰った3点しか現存しないそうです。
いずれも日本の国宝に指定されていて、日本に行かないと見ることができません。それで娘さんは、お父さんのお手伝いするために日本語を勉強しているのでした。親孝行な娘さんですね。関口さんも大感激してました。
3点のうち、徳川家康が所蔵していたという一品は、世田谷の静慶堂文庫に所蔵されていて、去年の秋に一般にも公開されていたようです。めったに公開されないので、今年も見られるかどうか分かりませんが、公開されるようなら見に行きたいです。
所長さんにお願いして、関口さんも一つ作らせてもらいました。茶碗の内側と外側をゆっーくり釉薬を浸していきます。さらに内側に筆を使って斑点模様を入れていきます。星雲の下絵ができました。
後日、出来上がった焼き物には氷の結晶のような鋭い模様が浮かび上がっていました。同じように作っても、できる模様が全然違うのですね。本当に不思議な陶器です。
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