中国鉄道大紀行 その62 民明書房の世界

9月17日は任丘(にんきゅう)から一気に400kmを南下し、武術の街・荷沢(かたく)から新郷(しんきょう)に至ります。
10:21任丘発。昨夜遅くついた関口さん、ボサボサの頭でカップ麺の朝食です。一面の綿畑の中を列車は南下していきます。ちょうど収穫の時期で、三輪トラックが白い綿の実を満載して走っていました。
先週、6時間かけて泰山から天津まで北上したよりも長い距離を今度は南下していきます。地図をみるとうんざりしそうな行程ですが、車窓はその分たっぷり眺められます。車内では子供が李白の詩をモチーフにした絵本を見てました。
林前見月光 (林の前に月光を見る)
疑是地上霜 (疑うらくはこれ地上の霜かと)
挙頭望山月 (頭を挙げて山月を望み)
低頭思故郷 (頭を低くして故郷を思う)
美しい詩ですが、子供には難しそうですね。
黄濁した水が流れる黄河を渡って、15:36荷沢着。人口876万人の大都市です。書画、戯曲、羊の産地だそうですが、孫子の生まれ故郷で武術の街としても有名で、全国から子供たちが武術を習いに集まってくるそうです。
街中には60もの武術学校があって、日々鍛練に励んでいます。その中の一つ「荷澤双河文武学校」を訪ねました。午前中の勉強(文)の時間がすんで、午後の習練(武)の最中です。
広いグランドの一角で散打(中国式ボクシング)の練習をしてました。グローブをつけてる所はボクシングスタイルですが、足が飛んできたりしてキックボクシング風でもあります。先生がいうには
「普通のボクシングは拳だけど、散打は足、ひざ、投げもあるんだ」
なんと、投げてもいいそうです。亀田選手は散打の方が向いてるかもしれませんね。
この学校では、7才から18才までの160人が寮生活を送っています。小さな子供たちも体術の基礎練習をしていました。
「こんな頃からやってると、うまくなるんだねえ」
上級生たちは見事な身のこなしで、飛び上がり、転がり、伏せ、回転し‥
ここを卒業して映画のスタントマンやガードマン、あるいは雑技団に就職する人が多いとか。
「きびきびして格好いい!」
「はじめて見るよ、こういう学校」
素手の他にヌンチャクや鞭を使う流派も練習してました。関口さん、鞭を使う試技を見学させてもらいましたが‥
3~4mほどの鞭がビュンビュンうなりをあげて飛んできます。羊飼いの鞭にヒントを得た牧羊鞭という技です。鞭が地面を叩くと、バン!バン!という音がしはじめました。さらに空中で巧みにくねらせると、またバン!バン!
「何そのでかい音!?」
「爆竹でも入ってるの?」
もちろん爆竹なんて入ってなくて、麻でできた穂が先についてるだけです。関口さん、鞭を借りて自分でも振ってみました。
ペシッ、ペシッ
気の抜けた音がするだけです。
「全然なんねーじゃん!」
鳴らないばかりか、地面で跳ねた鞭が関口さんに当たって痛そうです。見物してた子供たちがクスクス笑いをかみ殺してました。
もう一度お兄さんが目にも止まらぬ速さで鞭を振ると
バン!バン!
と大きな音が鳴り響きます。
「本当に爆竹なし?」
「メイヨー(入ってないよ)」
関口さん、納得してないようでしたが、見事な技を見せてもらいました。民明書房の書物に出てきそうな世界が実在するのですねえ。
18:57、荷沢発。冷房のない硬臥(B寝台)で新郷に向かいます。ちょっと暑いので軟臥(A寝台)に涼みに行った関口さん、そこで知り合った家族にピーナッツを振る舞われて、お礼に「お馬の親子」を歌ってました。歌に合わせて踊る子供が可愛かったです。両親が共働きで幼稚園の先生に習ったのだとか。武術を習う子も、お遊戯を習う子も、両親から離れて偉いですね!
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