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2009年3月19日 (木)

Social Capital 第1章 概念、歴史、測定

デービッド・ハルパーンの"Social Capital"(David Halpern 2005)を読んでいます。英語の本は時間がかかるので飛び飛びにしか読めないのですが、さしあたり1章のイントロダクションは全部読んでみました。

主な内容はSocial Capitalの定義、研究の歴史、概念整理、測定方法のレビューです。Social Capitalは社会関係資本と訳されることが多いのですが、ネットワーク、規範、サンクション(褒美や罰)の複合体で個人間や集団内での協力を促進する作用をもっています。集団間の協力を促進するかどうかは微妙で、集団内の結束を強化するタイプのSocial Capital(結束型SC)が卓越している場合には、集団間のあつれきを招く場合もありえます。一方、集団間のコミュニケーションを促進するタイプのSocial Capital(橋渡し型SC)がある程度存在すると、集団間の協力を促進すると考えられます。

ゲーム理論の言葉に翻訳すると、ネットワークは2者間協力の積み重ねですから、2者囚人のジレンマゲームにおけるCC均衡(応報戦略プラス十分な未来係数で実現)が網の目のように張り巡らされている状態に相当するでしょう。規範はN人囚人のジレンマゲームで協力を指示する作用を持ち、サンクションは規範に違反したときに罰を与えて利得を引き下げる(あるいは規範に従ったときに褒美を与えて利得を引き上げる)働きを持ちますので、ともに多人数での協力を促進する作用をもっています(もちろん2者間の協力も促進しますが)。したがって、ネットワーク、規範、サンクションがそろっている状態は2者間協力と多人数協力がバランス良く達成されている状態と考えることができます。

ちなみに規範とサンクションは集団内の協力を促進する一方で、外集団メンバーへの敵対や排除を奨励する場合がありますので(いわゆる自集団勝手)、規範とサンクションに偏重したSocial Capitalは外集団とのあつれきを生む場合があります。これが結束型SCに相当するのでしょう。これに対し、外集団メンバーとの2者間協力のネットワークの存在は外集団との協力をもたらす可能性があります。これが、橋渡し型SCに相当すると考えられます。

Social Capitalという言葉を最初に使ったのは、ハニファンという人で、1916年のことでした(Hanifan 1916)。1980年代にコールマン、1990年代にパットナムがこの言葉を使ってから急激にSocial Capitalについての研究が増え始めます。「資本」という経済学風の用語でネットワークや規範という社会学的な内容を表現する戦略は、経済学者と社会学者や政治学者など経済学以外の社会科学者の双方にアピールする可能性と、双方に嫌悪感を持たれる可能性の両方があって一長一短なのですが、90年代から00年代にかけての展開は前者の効果が後者を上回ったらしいことを示しています。

ただ研究者の増加は概念の拡散や混乱をもたらしがちですのでハルパーンは分析の単位とSocial Capitalの種類にそれぞれ3通りずつをもうけて、交通整理をはかっています。すなわち、分析の単位としては個人や家族のミクロレベル、地域や企業、宗教コミュニティなどのメソレベル、国家や国際関係といったマクロレベルが設定されます。Social Capitalの種類には結束型(Bonding)、橋渡し型(Bridging)の他に結合型(Linking、後述)が導入されています。これに、ネットワーク、規範、サンクションの3つを掛け合わせた3の3乗=27セルのマトリックスで研究対象を分類しましょうというのがハルパーンの提案です(P27 Fig.14)。機械的といえば機械的で、うまく埋まらないセルがあったりもしますが、それはそれで有用な情報だったりしますし、全体の見通しもよくなりますのでなかなか使える枠組みではないでしょうか。

結束型、橋渡し型と並んで導入されている「結合型」Social Capitalは微妙な概念で、「社会的な力関係が異なる主体同士を(支配被支配の関係ではなく)相互に尊重される対等の関係で結びつけるつながり」(p25,第2パラグラフ)とされています。社会的地位が異なる集団のメンバー同士を結びつける橋渡し型Social Capitalと解釈できますので橋渡し型SCのスペシャルケースと考えれば、結束、橋渡しと並列に並べる必要はないような気もします。あるいは「結合型」を独立してたてることで、そのような場合に注目した実証研究を促したいという意図があるのかもしれません。

この章の最後では、実証研究に不可決な測定の問題が論じられています。ハルパーンはパットナム流に自発的団体の数や密度をSocial Capitalの指標に使うことには否定的で(数えるべき団体の範囲があいまいで、経済発展や健康など重要な変数との相関が低いから‥らしいです)、その代わり一般的信頼の質問をラフな指標として用いることを提唱しています。

「一般的に言って、たいていの人は信頼できると思いますか、それとも用心するに越したことはないと思いますか」

というのが標準的な質問文で、パットナムの社会関係資本指数と0.92の相関があるほか、経済発展などの外的変数とも十分な相関があるのがその理由としてあげられています。

まあ、Social Capitalが2者やN者の協力を促進して非協力を抑制する機能をもっているとすると、そのような社会で暮らしている人は非協力的な振る舞いをする人に出くわす確率が少ないので、「たいていの人は信頼できますか」という質問にYESと答える確率は高くなるでしょう。その意味で、一般信頼をきく質問は社会関係資本が機能しているかどうかを知るためのよい代理指標になるというのはうなずける話です。ノルウェイでは65%の人がこの質問に対して信頼できると答え、ブラジルでは5%しかそう答えなかった(ちなみに学生にきくと30%足らずでした)といった結果から国による違いを考察するといった国際比較の文脈では簡便で有用な指標でしょう。

ただ、せっかく27通りのセルを考えたのに測定指標が一般信頼だけというのは寂しい話で、それぞれのセルを測定する指標の開発も進められているようです。イギリスの一般家計調査で用いられている社会参加や近隣関係、社会的ネットワークや援助ネットワークの質問項目(地域活動に参加していますか、よく情報を知らされていると思いますか、困ったときに相談できる人がいますかなど)の質問は、ミクロやメソスケールの結束型や橋渡し型のネットワークを測定する方法といえるでしょう。近年では各国政府や世界銀行といった組織もSocial Capitalの測定に乗り出していて、細かい測定指標も整備されつつあるようです。とはいえ、社会関係資本の「会計監査」ができるほどの水準にはまだまだ達してなくて、研究の進展が望まれるというのが2004年当時の現状であったようです。

1章はざっとこんな感じでなかなか勉強になりました。2章以降は、サマリーとコンクルージョンの部分をつまみ食いしていきたいと思います。

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