見える貢献と見えない貢献
学生の社会貢献意識について、少し質問項目を増やしてきいてみました。調査は2009年7月下旬に社会調査の授業中に実施し、サンプルは男性157名、女性29名、不明4名の190名です。経済学部が中心で男性が84%を占める偏ったサンプルですが、ある程度の傾向を見ることはできるでしょう。
質問項目と「はい」の割合(4件法で、とてもそう思う、ややそう思うの合計パーセント)は次の通りです。
プレゼントをして、相手が喜ぶのを見るのが好きだ (86%)
電車の中で音楽をきくときは
周りに音漏れをしないように気をつけている (83%)
電車ではお年寄りに席を譲る (74%)
日頃から、何か社会のために役立ちたいと思っている (58%)
みんなで食事をするときサラダを取り分けたりする (50%)
困っている人がいたら声をかける (50%)
使い捨ての商品はなるべく買わないようにしている (38%)
冷房の温度は28℃以上に設定している (34%)
募金にはなるべく応じるようにしている (25%)
学校に献血車が来たときは献血をするようにしている (9%)
掃除当番などの義務はなるべく避けたい[逆転] (56%)
給料が同じならば、必要以上には働きたくない[逆転] (66%)
逆転項目を除いて「はい」の割合の多い順に並べてあります。<プレゼント>とか<音漏れ配慮>とかは社会貢献というよりは対人配慮に近いですが、比較のためにきいてみました。
この中で端的に社会貢献意欲を示すのが「日頃から何か社会のために役立ちたいと思っている」で、58%の学生が「はい」と答えています。この数字は男性では56%、女性では69%で女性の方が危険率5%で有意に高いのですが、6割近い学生が社会貢献意欲を持っているというのは、若年層の社会への無関心が言われる中では少々意外な結果でした。
<音漏れ配慮>や<席を譲る>も7~8割の学生が「はい」と答えていて、実際の行動は別かもしれませんが意識のレベルでは貢献や配慮をしようとしているようです。一方で、<使い捨て買わない>や<冷房控える>は3~4割で、かなり少なくなっていますし、<募金>や<献血>に至っては1~2割の少数派に留まっています。また<義務いや>や<余分に働きたくない>も6~7割の多数派を占め、社会貢献したいが6割という数字とのギャップが感じられる結果となりました。
そこで次にこれらの項目を因子分析にかけて、社会貢献意識の構造を探ってみることにしました。プロマックス回転で得られた4因子解(累積寄与率57%)を以下に示しましょう。
1 2 3 4
-------------------
献血 0.76 0.35 0.02 -0.13
募金 0.73 0.40 -0.01 -0.08
冷房 0.69 0.00 -0.21 0.11
使いすて 0.51 0.32 -0.18 0.34
-------------------
声かける 0.33 0.80 -0.18 0.01
席譲る 0.12 0.75 -0.27 0.27
社会貢献 0.45 0.67 -0.17 0.20
-------------------
掃除当番 -0.08 -0.15 0.90 -0.13
給料同じ -0.18 -0.35 0.87 -0.12
-------------------
プレゼント -0.02 0.23 0.00 0.67
サラダ 0.07 0.14 -0.15 0.66
音漏れ配慮 -0.01 0.00 -0.10 0.63
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第1因子は<献血>、<募金>、<冷房>、<使い捨て>といった「はい」の率の低い項目が並びました。これらは率が似通っているだけでなく、背後に共通の因子が存在しているようです。この4項目についてα係数を求めてみると0.61となりました。そこそこまとまりのよい尺度も構成しているようです。
第2因子は<声かける>、<席譲る>、<社会貢献>という比較的「はい」の率が高い項目群になりました。α係数は0.66で第1因子よりまとまりがよいことが分かります。互いの相関は0.36~0.42でこちらの面でもまとまりのよさが裏付けられます。
第3因子は<掃除当番いや>、<給料以上に働きたくない>という逆転項目たちで、互いの相関は0.62、α係数は0.76となりました。フリーライド志向を示す項目群です。第4因子は<プレゼントするのが好き>、<サラダを取り分ける>、<音漏れに配慮する>ですが、α係数=0.41、互いの相関も0.15~0.22と低く、残余項目といった趣です。
そんなわけで、「はい」の率が低い第1因子の項目群と「はい」の率の比較的高い第2因子の項目群は背後に別々の促進要因を持っているらしいことが分かりました。第1因子の方がどちらかというと社会貢献っぽい項目群なのですが、学生の<社会貢献意欲>は第2因子に含まれています。第2因子の他の項目は「困っている人に声をかける」「お年寄りに席を譲る」という、貢献する相手が目に見えるところにいる項目になっています。その意味で第2因子は《見える貢献》を示す項目群からなると考えられます。助ける相手は知人ではなく見知らぬ他者が想定されますので、その意味で社会貢献と呼んでもおかしくはないのですが、相手が見えるところに居てくれると実行率が高くなるようです。
一方、第1因子は献血にしても募金にしても省エネにしてもゴミの削減にしても、貢献する相手が目に見えるところには居てくれません。同じ見知らぬ他者への貢献でも、不特定多数を対象としたこういう《見えない貢献》の場合は実行率が低くなってしまうようです。第3因子の場合も、義務を進んで果たすことや給料以上の仕事を進んで行うことで貢献できる相手が見えにくいという点で《見えない貢献》のバリエーションといえそうです。この種のフリーライド志向の高さも《見えない貢献》の難しさと関連があるのかもしれません。
第4因子の<プレゼント>や<サラダの取り分け>は見知らぬ他者というよりは知り合いへの配慮や貢献を示す点で他の因子とは異質です。これらに「はい」と答える率が高いのは知り合いへの貢献である点と関連があるのでしょう。音漏れ配慮がこの因子に入っているのは不思議な気もしますが、通学の車内を想定すると知り合いへの配慮が音漏れ配慮の促進要因になっていることもありうる気はします。いずれにしろ要検討ですが。
以上のように今回調べた項目は、知人への貢献や配慮、目の前にいる他者への貢献や配慮、目の前にいない他者への貢献や配慮を示す項目に分類できると言えます。学生が「何か社会のために役立ちたい」というときの社会貢献意欲は目の前の他者に対する《見える貢献》のことを意味しているのでしょう。これは社会一般に対する《見えない貢献》とは関連はあるものの別物で、この違いが最初に紹介した「はい」の率の違いに反映しているのだと考えられます。社会一般に対する貢献をうまく「見える化」できれば貢献率を引き上げることができるかもしれませんね。
第1因子と第2因子の間には貢献対象の可視性の他に、貢献のコストや対象の数(1人か多数か)の違いもあり、対象の数の違いは一般交換かN人ジレンマ回避かの違いにも結びついています。これらの要素が貢献率や促進要因(阻害要因)の違いにどう結びついているのかといった問題は今後の課題にしたいと思います。
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