【みんなのうた50年史】 『トム・ピリビ』(1961年)
再び1961年のうたに戻りましょう。『トム・ピリビ』は61年6、7月のうたのなかでは一番有名かもしれません。曲名でググったときに記事がたくさん出てくるという点では初期みんなのうたのなかでも屈指でしょう。
♪ トム・ピリビは二軒 おうちを持っている
♪ お城のように大きなうち
お城のような家、宝さがしにでかける二隻の船に何でも知ってる魔法のオウム。1番、2番ではトム・ピリビの大金持ちぶりが語られます。
♪ 幸せなトム・ピリビ
♪ 何でもできる素敵な人
流麗なサビの旋律がさらにトム・ピリビを讃えます。最初にレコードを聴いたときは私もふむふむ、羨ましいことだとおもっていたのですが・・
♪ 誰もが好きなトム・ピリビには
♪ 一つの悪い癖がある
3番になって真相が語られます。トム・ピリビの癖とは嘘をつくこと。おうちも船も全部嘘、彼
の妄想だったわけですね。なあんだという訳で、3番の展開がショックだったというブログ記事もみかけたりしました。でも最後の終わり方が気になります。
♪ 大ボラ吹きのトム・ピリビ
♪ だけどとてもお人よし
♪ 仲良しになりたい
♪ 素敵な人トム・ピリビ
大ボラ吹きのトム・ピリビは決して嫌われてないんですね。それどころか仲良しになりたいとまで言われています。これはどういうことでしょう?
水星社のテキストにはトム・ピリビは「フランスの子供に親しまれている昔話の主人公」とあります。もとはフランスの曲のようです。そこで『Tom Pillibi』で調べなおしてみますと段々真相がわかってきました。
『Tom Pillibi』は1960年のユーロビジョンソングコンテストの優勝曲だったのです。ユーロビジョン・コンテストは年に一回、ヨーロッパ各国からエントリーされた楽曲をテレビで放映して、自国以外の作品に対して人気投票を行う企画で、1960年には13カ国が参加していました。そのなかで優勝したのですからたいしたものですね。
Jacquelineという女性が表情たっぷりにTom Pillibiの素晴らしさを歌い上げていきます。フランス語と英語の歌詞がこのページ(http://www.diggiloo.net/?1960fr)に載っているのですが、英語版の歌詞によるとトム・ピリビはスコットランドとモンテネグロに城を持っています。さらには世界の果てから宝物やサンゴを運んでくる二隻の船も持っています。ここまでは日本語版とあまり変わりませんね。
♪ 幸せもののトム・ピリビ
♪ 私は彼の恋人よ
♪ お金持ちでねたんじゃう
♪ にくい人ねトム・ピリビ
サビの部分で歌い手がトム・ピリビの恋人であることが判明します。お金持ちの恋人でさぞ幸せかと思っていたら・・
2番で王女さまが登場します。この王女さま、微笑みながらトム・ピリビを寝室で待ってるんですよね。ちょっとみんなのうたには向かない展開です。幸運の星のもとに生まれたトム・ピリビ。なんてにくい人なんでしょう!
3番でトム・ピリビのちょっとした欠点が明かされます。ハンサムで親切で勇気のあるトム・ピリビは嘘つきだったんですね。スコットランドのお城も宝船もやきもちを焼かせる王女さまも作り話だったのです。そして3番のサビはこういう歌詞になっています。直訳しておきましょう(このままでは歌えませんけど)。
すべては存在しないけれど
彼の腕の中では気にしない
だって私は彼が連れて行ってくれる
大きな国の女王様
にくい人ねトム・ピリビ
嘘にもいろいろありますが、トム・ピリビの嘘は恋人を楽しませる甘い嘘だったわけですね。ヨーロッパ中の人に愛されたわけです。
恋人への甘い嘘という部分を、周りの人を楽しませる無邪気な嘘と解釈したのが日本語版『トム・ピリビ』だったということになるのでしょう。今に至るまでファンが多いのも分かる気がします。
なおNHKの公式HPでは『トム・ピリピ』になっていますが、もとが『Tom Pillibi』ですので『トム・ピリビ』が正しいと思われます(水星社のテキストでもそうなっています)。
『トム・ピリビ』
うた:ダーク・ダックス
作詞:ダーク・ダックス
作曲:アンドレ・ポップ
編曲:服部克久
アニメ:中原収一
初回放送:1961年6月
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コメント
オリジナルを歌ったジャクリーヌ・ボワイエは、人気歌手になり、
72歳の今も現役で歌っているようです。往年の名歌手・リュシ
エンヌ・ボワイエの愛娘ですね。
投稿: naosuke | 2013年7月 8日 (月) 22時18分
「大ボラ吹きのトムピリビ」の歌詞は1965年版ではないでしょうか?
投稿: うい | 2020年1月 3日 (金) 23時13分
ご指摘ありがとうございます。1961年はまだテキストがなかった時期なので確認が難しいのですが、このときは「大ぼら吹き」のくだりはなかったようですね。本文の方に追記しておきます。
投稿: くじょう | 2020年2月 3日 (月) 00時14分
「トム・ピリビ」は1961年版、1965年版ともに
中原収一さんの映像だそうですが、変更されていたのでしょうか?
投稿: うい | 2020年8月 7日 (金) 17時24分
英語版の歌詞を日本語訳したのを小学校の音楽会で合唱すれば面白いと思うのですが、それは無理でしょうか?
投稿: トオル | 2020年9月25日 (金) 17時47分
トオルさん
2番の寝室のくだりを修正すれば、小学生向けの歌詞にアレンジできるかもしれないですね。ただ音楽会で歌うとなると権利関係がどうなるのか、ちょっと分からないです。翻訳も修正も演奏もそれぞれ権利処理が必要なはずですが、具体的にはどうするのか著作権に詳しい方にきいて頂けると幸いです。
投稿: くじょう | 2020年9月26日 (土) 12時37分
「トム・ピリビ」のペギー葉山さんの1965年版は
音声もまだ発掘されていないそうです。
投稿: うい | 2020年9月30日 (水) 18時16分
1965年版は水野汀子さんの訳詞、若松正司さんの編曲で、アニメーションは1961年と同じく中原収一さんだったようです。
投稿: うい | 2021年1月28日 (木) 08時52分
YouTubeでnatvcolさんの「特集みんなのうた(1965年12月31日放送)」に音声のみですが「トム・ピリビ」の最初と最後があるようです。
投稿: うい | 2021年5月26日 (水) 16時53分
「トム・ピリビ(1965年版)」の音声が発掘されたそうです。
投稿: うい | 2021年9月 3日 (金) 18時00分
ちなみに1961年6〜7月には
「三匹の蜂」
投稿: うい | 2021年9月11日 (土) 22時41分
失礼しました。
ちなみに1961年6〜7月には
「三匹の蜂」も中原さんがアニメを担当したそうです。
投稿: うい | 2021年9月11日 (土) 22時42分
昨日の三昧でこの曲が流れたそうです
投稿: うい | 2022年1月11日 (火) 15時12分
放送しました。
ただし放送されたのは1965年に放送されたペギー葉山版。一般的に知られている方です。これに対しダーク版は、トムが嘘つきというオチはないです。
投稿: マーチャン | 2022年1月11日 (火) 18時58分
65年版はペギー葉山さんが、一人芝居のモノローグみたいな歌い方をされてましたね。とても凝ったつくりになっていました。今回聴けてよかったです。
投稿: くじょう | 2022年1月15日 (土) 21時47分
「旅立ちのうた」が初回放送された2004年2~3月には、BANANA ICEが編曲された「タチツテト手を」が再放送されていました。
投稿: | 2022年10月27日 (木) 17時34分
ペギー葉山さんの歌われたひげなしゴゲジャバルのあのタイトル画像はDVDの第5集で使われていた時、懐かしいなあ~と思いました。
ゴゲジャバルがひげを切られてかわいそうと思いましたけどね。
投稿: 1985年6月当時、ひげなしゴゲジャバル、ペルシャの子守歌の再放送を見ていた者 | 2023年2月 8日 (水) 21時01分
第4集の13曲目の「今でも船長と呼ばれている船長の夜」のタイトル画像にも使われていますね。
投稿: うい | 2023年2月 9日 (木) 08時14分
CD版
https://m.youtube.com/watch?v=jdo3pqsi1XA&pp=ygUP44OI44Og44OU44Oq44OT
投稿: | 2024年12月 8日 (日) 15時37分