« 初対面の経験と一般的信頼 | トップページ | はやぶさ »

2011年8月 2日 (火)

初対面の経験続き 観光地のモデル

初対面の相手との相互作用はゲーム理論的には、一回きりの囚人のジレンマゲーム(ワンショットPD)、一般交換、繰り返しのある囚人のジレンマゲーム(繰り返しPD)の1回目、の3種類に分類できることをみてきました。

このうち繰り返しPDの1回目のケース(今後長期間の付き合いが予想されるケース)が一番協力行動が行われやすいと考えられます。長期の利益が見込まれる状況でそれをいきなり棒に振るのはもったいない話ですから。ただし、このようなケースで協力的に振舞われても一般的信頼の向上にはあまり貢献しないかもしれません。

これに対しワンショットのPDゲームでの協力はずっと不安定です。キャッチセールスについていってよい結果を期待することは難しいでしょう。初めての店に入る場合はもう少し微妙で、お得意さんになってくれそうな場合には繰り返しPDの枠組みに従った対応が期待できます。しかし、観光地の土産物屋や朝市のような場合はどうでしょうか。

とある観光地の朝市で毛ガニを勧められて買ったことがありますが、値段の割りに味はいまいちだった経験があります。観光地の駅前の食堂も特においしくないことが多いです。他方、札幌の海鮮市場で食べた海鮮丼や仙台で食べた牛タンシチューのように当たりに出くわすこともあります。

観光地の土産物屋にリピーターになる人は多くはないでしょう。大半の人はその店には一度しかこないことを考えればワンショットのPDが日々土産物売り場では繰り広げられていることになります。ワンショットPDでは非協力の誘因が働きますから、観光地の土産物屋や食堂がしょぼくてもそれほど不思議ではありません。むしろ、一度しか行かない観光地の店で当たりに出くわす方が不思議といえます。

一つにはそのような店の経営者がしっかりした経営方針や善意に基づいて、良い品を提供しているということがあるでしょう。良い品を継続して提供していれば口コミによる評価が上がりますし、ガイドブックに掲載されるかもしれません。そうすれば一見さんが沢山きてくれるかもしれませんし、中にはリピーターになる人もできるでしょう。実際、札幌の海鮮市場はガイドブックを見て知りましたし、仙台の牛タン屋さんは食べログを見ていきました。

これはワンショットPDにおける評判の役割を示しています。良心的な経営をしていてもそれでお客が増えないのであれば(リピーターが少ない条件では良い品を出しても客が増えない可能性が高い)、コストがかさんで持続可能でなくなるかもしれません。評判による一見さんの集客効果があれば、良心的な店が持続可能になり、そのような店が増える可能性も出てきます。

もちろん口コミやガイドブックの記事は操作や演出することができますので100%信頼できるわけではありません。実際、毛ガニの店もガイドブックに載っていたのですがそんなにおいしくありませんでした。ガイドブックに載って客が来るようになると手を抜くようにある、あるいは質のよい品の仕入れが追いつかないなどの理由でおいしくなくなるケースもあるでしょう。評判システム自体の信頼性や情報の適切な更新の問題がそこにはあるわけですが、さしあたり信頼性の高い評判システムが存在していればワンショットPDにおいても協力的な戦略が存続しうるということがいえるでしょう。

こうした店のレベルの評判の他に、観光地としての評判や印象というものもありえます。しょぼい店ばかりが並ぶ観光地は魅力に欠け、工夫を凝らした土産物やコストパフォーマンスの良い料理を出す店が並ぶ観光地に客を奪われてしまうでしょう。このレベルの観光地間競争を考慮に入れると、良心的な経営をする店はコストを負担しながら周囲の店にプラスの影響を与えている存在とみなすことができるようになります。そのような店にフリーライドする店もありうるでしょうから、この状況はn人囚人のジレンマゲーム(nPDゲーム)としてモデル化するのが適切と考えられます。

nPDゲームではn人(n軒)からなる集団が複数存在し、集団内では良心的なプレーヤーがコストを負担する分、不利となる一方で、集団間の競争では良心的なプレーヤーが多い集団が有利となります。いわゆる集団選択の状況となるわけですが、集団間競争の存在が即、良心的なプレーヤーを持続可能にするとは限りません。集団内ではフリーライダーが有利ですから、良心的なプレーヤーは駆逐されてしまう可能性があります。ぱっとしない店が並ぶ観光地はこうして誕生するのかもしれません。

ここでもし商店街を束ねる商工会議所のような組織が存在して、町おこしや観光地の振興に努力すると状況が変わる可能性があります。そうした組織が良心的な経営をする店を表彰や支援を行い、努力しない店を説得したり圧力をかけたりすると、集団内でも良心的な店が有利になります。そのようにして良心的な店が増えると観光地自体の評判も高まり、観光客が集まるようになるかもしれません。

これはサンクション提供によるn人ジレンマ回避のモデルを観光地を事例として書き直したものですが、一般にnPD状況ではサンクション(C行動への褒美やD行動への罰則)の提供が可能な場合には協力行動がある程度維持されうることが知られています。もちろんサンクションにはコストがかかりますし、商工会議所の活動も時間が経つと担い手が不足して衰えてくると予測されますが、サンクションが機能する間は良心的な店が存続しうると考えられます。その間にこうした「成功事例」を他の観光地が模倣すれば、観光地の盛衰を伴いつつ成功事例が存続しつづけることもありえます。

この辺のダイナミクスはシミュレーションで再現できますし、パラメーターによって成功事例が存続しうることもすべてが失敗事例に落ち込むことがあることも判明しています。現実に存在する良心的な店の背後には、こうした割と壮大なメカニズムが存在している可能性も考えられます。

このようにワンショットPDが行われていると見える状況も実はn人ジレンマの状況で、サンクションによる集団選択の増幅作用が効いて協力的な戦略が存続している場合もあるのではないかと私は考えています。こうしたプロセスが一般的信頼の維持に貢献しているケースもあるのでしょう。論証なり実証なりは今後の課題ではありますけどね。

さて、明日からねぶたを見に行きますのでこの稿はしばらくお休みです。また帰ってきたら続きを書くことにしましょう。

|

« 初対面の経験と一般的信頼 | トップページ | はやぶさ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/121873/52375856

この記事へのトラックバック一覧です: 初対面の経験続き 観光地のモデル:

« 初対面の経験と一般的信頼 | トップページ | はやぶさ »