知人信頼と一般的信頼
ここまで認知レベルの一般的信頼成立のメカニズムを考察してきました。直接面識のない他者が基本的に善意をもっているとみなす態度が認知レベルの一般的信頼です。これは、見知らぬ他者と1回切りの囚人のジレンマゲームをしたり(1度しか来ない店で買い物をするなど)、見知らぬ他者に助けを求めたりする場合(一般交換による援助場面)に、好意的な対応をされると形成され維持されると考えられます。その意味で、認知レベルの一般的信頼は1対1の行動レベルの一般的信頼とパラレルな現象で、おそらく両者は共進化をしてきたのでしょう。
面識のない相手との1回切りの囚人のジレンマ(PD)で協力行動を採るメカニズムとしては、繰り返しPDにおける戦略の使い回しや、知人に対する共感の使いまわし、さらに非協力行動による共感の搾取を防ぐことができるサンクションシステムの存在が想定されることも見てきました。これらの存在が一般的信頼成立の条件であるとすると、たとえば知人に対する信頼が高いことが一般的信頼を高める効果があることが予想されます。
知人に対する信頼が高い社会とは、知人との付き合いが長く、人々の絆が強い社会ということになるでしょう。世界価値観調査第5波調査でデータのそろっている45カ国について一般的信頼の高さ(「信頼する」と答えた割合)と知人信頼の高さ(「とても信頼する」「やや信頼する」の合計)との相関を取ると0.59となります。実際に知人信頼が高い社会では一般的信頼が高いといえるでしょう。
ちなみに45カ国のデータについて一般的信頼と最も相関が高いのは初対面の相手に対する信頼を示す初対面信頼です(相関係数0.61)。一般的な他者とは初対面の他者を意味すると一応はいえる結果です。次が知人信頼(0.59)で、以下近所の人に対する信頼である近所信頼(0.51)、外国人に対する信頼である外国人信頼(0.49)となります。一般的な他者の範疇に外国人はストレートには含まれていないようです。
外国人信頼と高い相関があるのは初対面信頼で相関係数は0.90に達します。両者は実質的に同じものといえるでしょう。初対面信頼と次に高い相関を持つのは知人信頼(0.68)で一般的信頼(0.61)よりも高くなっています。外国人信頼と二番目に高い相関を示すのも知人信頼(0.67)で、知人に対する信頼が高い社会は初対面の人や外国人に対する信頼も高いといえそうです。
他方、近所信頼と外国人信頼の相関は0.36しかなく近所の人に対する信頼は外国人に対する信頼に転化されにくいようですね。これがなぜなのかは別途考察する必要がありますが、さしあたり近所信頼と知人信頼に異なる側面があること、近所信頼は明確にコミュニティ外の人への信頼に転化しにくいのに対し、知人信頼はコミュニティ外の人への信頼に転化されやすいことが確認できます。
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