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2011年8月 2日 (火)

初対面の経験と一般的信頼

初期の教育と見知らぬ他者とのポジティブな交流とによって、一般的信頼が形成されると考えられることをみてきました。まあ、初期に形成された一般的信頼が見知らぬ他者と出会う機会がないまま維持されるという可能性もありますが、少なくとも見知らぬ他者にひどい目に会わされる経験を重ねると、一般的信頼は維持されにくいでしょう。したがって、見知らぬ他者と関わる機会があるとすれば、それが概ねポジティブなものであることが、一般的信頼形成の条件であるといえます。

見知らぬ他者と相互作用を持つ機会としてはどのようなものが考えられるでしょうか。街中で見知らぬ人に声をかけるケース、今まで入ったことのない店に入ってみるケース、新規の取引先に営業をかけるケースなどがあるかもしれません。就活を行う学生は日々初対面の人に出会っていることでしょう。婚活パーティに参加しても新しい人に出会えます。進学や入社をすると何十人、何百人という単位で初対面の人と出会うことになるでしょう。これらの場でどのような経験をするかが一般的信頼に影響を与えると考えられます。

もう少し詳しく考えて見ましょう。街中で見知らぬ人に声をかけるというのは、あまりメジャーではないケースですね。キャッチセールスか宗教の勧誘かナンパか何かと思われて警戒されるのがオチでしょう。キャッチセールスで高額な商品を言葉巧みに勧められて代金を支払っても、その商品は代金に見合う価値のある品物ではないかもしれません。ゲーム理論的には1回きりの囚人のジレンマゲーム(ワンショットPDゲーム)がプレーされる場合に相当します。

ワンショットPDではこちらが協力行動(C行動)を採って代金を支払ったとき、相手は質の良い商品を手渡す(C行動を採る)より、質の悪い商品を手渡したり代金だけ受け取って姿をくらませたりする(D行動を採る)方が利益が大きくなります。したがって、相手が自己利益の最大化を図っている場合にはD行動を採るでしょうし、こちらも関わりをもたないのが吉となります。そんなわけで路上のキャッチセールスは成功しにくいのですが、成功した場合の利益が大きいの繁華街などでみかけることもままあるのでしょう。こうした皆さんが一般的信頼の引き下げに貢献してくれます。

キャッチセールスとはまた違うケースとして、街中で見知らぬ人に道をきかれることもときどき経験します。逆に見知らぬ街で道を尋ねることもあるでしょう。最近では携帯やスマートフォンのGPSが現在位置や道順を教えてくれますので、道をきくことも少なくなりましたが、それでもきいてみると大抵の人が親切に道を教えてくれてありがたいです。一般的信頼を多少とも引き上げてくれる経験といえるでしょう。

立ち止まって道を教える行為には若干の手間隙というコストがかかりますので、ゲーム理論的には誰も教えてくれないことが予想されます。とはいえ、たいしたコストではありませんし、教えてもらった人は大いに助かります。自分も教えてもらう立場になるかもしれないのでお互い様だ、と考えて道を教える人も少ないないでしょう。直接の見返りはないとしてもいつかは自分も助けてもらう立場になるかもしれない。そう考えて援助行動を行う戦略が進化できるとするアイディアが<一般交換>の考え方です。AさんがBさんを助け、BさんがCさんを助け、Cさんが‥。そしてIさんがAさんを助ければ全員の利益が向上します。<情けは人のためならず>の心意気で見知らぬ他者を援助するとする考え方が一般交換です。

一般交換のアイディアによるシミュレーション研究は数多く行われていますが、普通に走らせると他人に助けてもらうけれども自分は他人を助けない戦略が侵入して一般交換は崩れてしまいます。そこで、そういうフリーライダーは助けない戦略を考えたり、助けなかった人を助けない人は助けることにしたり‥といった過去の行動の履歴によって援助するかしないかを決める戦略がいろいろ考案されています。過去、人を助けなかった人を助けなかった人は助けるが、人を助けなかった人を助けた人は助けないという戦略(ややこしいですね!)を考えると一般交換が維持されるという論文を読んだこともあります。

それはそれで興味深い研究ですが、見知らぬ人に道をきかれたときに、その人が過去に他人に道を教えたか教えなかったか、さらに道を教えた(教えなかった)相手が過去に人に道を教えたか、などといったことは知る由もありません。実際には困っている人がいたらとりあえず助けるというシンプルな戦略が流布しているようにも感じられます。その条件で援助にフリーライドする戦略が広まらないのはなぜかを考える方が現実的な研究になるかもしれません。

道端で声をかけるのではなく、知らない店に入ったり、新規の取引先を訪ねたり、新しい団体に加入する場合はどうでしょうか。特に入学や入社、転校や転職で新しい団体や組織に加入すると一度に沢山の初対面の人と出会うことになります。うまがあう人もいれば苦手な人もいるのでドキドキしてしまいますが、全員とそりが合わないケースはどちらかというと少なくて、何人かうまくやっていけるケースが多いのではないでしょうか。

決まった相手と継続して人間関係を持つことは、その相手と繰り返し囚人のジレンマゲーム(繰り返しPDゲーム)を行うことに相当します。好意に好意で報いるとお互いにプラスになります。好意に悪意で報いると一時的に大きく得をすることがあるかもしれませんが、関係が壊れてしまって長期的にはマイナスになるかもしれません。ワンショットのPDでは長期的な利益が存在しないのでC行動にもD行動で返されてしまいますが、繰り返しPDで長期的な利益が見込める場合にはC行動にC行動で報いる関係が続く可能性があります。

繰り返しPDゲームを行う状況ではしっぺ返し戦略(最初はCで相手がCなら自分もC、相手がDなら自分もDを返す戦略)やそれに類似した戦略(相手が何回かDをとれば自分もDを採るなど)が安定戦略になる場合があることが知られています。長期的な付き合いが予想される状況ではこうした戦略を無意識に採る人も少ないないでしょう。新しい団体や組織に加入する場合には、そのときは初対面であってもその後は長い付き合いになる可能性があります。こうしたケースではしっぺ返しに類似した戦略が発動して最初うまくいけば、その後ずっとうまくやっていけるケースが生じるものと考えられます。

新しい店を開拓したり新規の取引先を訪ねるケースでも、相手が長い付き合いになると感じたり、お馴染みさんになってほしいと思っている場合には好意的な対応をしてくれる可能性があります。もちろん、いつも好意的とは限りませんし、こちらに悪意があると認知されればけんもほろろな対応をされる可能性もありますが、さもなければ好意的に応対してもらえる可能性は結構あると考えられるでしょう。

団体への新規参加や取引先の新規開拓のケースが一般的信頼に与える影響は微妙です。好意的に応対してもらって一般的信頼が下がることはないと思いますが、長期的な付き合いがありうる相手が好意的に反応してくれても他者一般に対する信頼は高まらないかもしれません。とはいえ新規開拓に成功すると自信がついて一般的信頼が高まるような気もします。どうなるかいまいち予想は定まりませんが、一度しか会うことがないことが分かっているケースよりは効果が薄いだろうと予想することは出来そうです。

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