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2015年7月28日 (火)

【再放送曲】『空に小鳥がいなくなった日』(1972年)



2011年7月の「熱中スタジアム」の収録のさい、「怖いうたをあげてください」というお題のときにフリップに書いた曲が『空に小鳥がいなくなった日』でした。一言コメントは「沈黙の春に歌い続ける人間たち」。番組側としては『メトロポリタン美術館』とか『まっくら森の歌』とかをあげて欲しいのだろうなと思いましたし、現にその方向に番組は進行したですが、個人的にはキングレコードでこの曲を聴いたときの衝撃が忘れられなかったのでした。

♪ 森にけものがいなくなった日
♪ 森はひっそり息をこらした

シンガーズ・スリーのスキャットが冒頭からただならぬ雰囲気を醸し出しています。60年代の高度経済成長で生活水準が大いに向上する一方で、公害や自然破壊による弊害も深刻になってきていました。野生動物が豊かに息づく日本の野山も失われつつある…。上條さんもひっそりうたいはじめます。

♪ 森にけものがいなくなった日
♪ ヒトは道路をつくりつづけた


自然が失われつつあるなか、なおも道路をつくりつづける人間たち。一度動き始めたら止まらない公共事業の数々が頭をよぎりますね。1972年というと、田中角栄通産大臣が「日本列島改造論」を打ち出して首相になった年です(7月7日就任)。谷川さんがこの詩を書かれたのはもう少し前のことだと思いますが、72年6、7月という放送期間は図らずも谷川さんのメッセージを伝える絶妙のタイミングとなりました。



海に魚がいなくなっても港をつくりつづけた人間たちは、街に子どもがいなくなっても公園をつくりつづけます。少子化が問題になるのは80年代に入ってからですが、この辺は谷川さんの先見の明でしょうか。街に子どもがいなくなっても街はなおさらにぎわっています。子どもがいなくなったあとに、自分たちにどんな運命が待ち受けているのか気づかないかのように。あるいはそれを予感するからこその空騒ぎなのかもしれません。ここまで毒の効いた表現がみんなのうたで扱われるのも珍しいでしょう。

♪ ヒトに自分がいなくなった日
♪ ヒトは互いにとても似ていた


この作品は5番まであって、これが4番になります。レコードバージョンでは5分45秒かけてフルコーラスが演奏されますが、放送ではどうだったのか気になっていました。1、3、5番にして間奏を短めに2分半に収めるのかどうするのか。今回発掘された音源の再放送を聞いてみると、4番を省略しただけであとは全部歌われていました。放送時間4分30秒。まさかのロングバージョンだったんですね。『WAになっておどろう ~イレ アイエ~』が最初のロングバージョンかと思ってましたが、どうやらこの曲が最初だったようです。

♪ ヒトに自分がいなくなった日
♪ ヒトは未来を信じつづけた


自分というものを見失った人間たち。周りに合わせることで、周りと同じであることに安心する人間たち。未来を警告する声もあることはあるのですが、「ちょっと変わった人」の声として片付けられてしまいます。周りと同じことをしてれば大丈夫。何かあっても自分の責任ではない。こうして「これまで通り」が惰性で続けられていくことになります。

レコードバージョンでは上條さんも一番力を込めてこの部分を歌ってらっしゃいます。省略するには惜しいフレーズですが、一つ削るとすればやっぱりここになるのでしょうか。

♪ 空に小鳥がいなくなった日
♪ 空は静かに涙ながした


レコードバージョンではシンガーズ・スリーのスキャットをはさんで、声をひそめてこのフレーズが歌いはじめられます。いよいよタイトルの登場です。レイチェル・カーソンが『沈黙の春』を出版したのは1962年のことですから、谷川さんはおそらくこの本の内容を踏まえて、このタイトルをつけられたのだろうと思われます。

自然は沈黙した…鳥たちはどこへ行ってしまったのか…みんな不思議に思い、不吉な予感に怯えた…ああ鳥がいた、と思っても死にかけていた…春が来たが、沈黙の春だった。

こうした印象的な書き出しで、農薬のついた落ち葉をミミズが食べ、そのミミズを鳥が食べ…という生体濃縮のプロセスを明らかにした本は世界的なベストセラーになりました。
空に小鳥がいなくなった日、空は静かに涙を流します。

鳥の次は人間かも、というのがレイチェル・カーソンのもう一つのメッセージだったわけですが、この警告に対して人間たちがどう反応するのかと思っていると…

♪ 空に小鳥がいなくなった日
♪ ヒトは知らずに歌いつづけた


このフレーズを聞いたとき、心の底からゾッとしてしまいました。なぜって、本当にありそうな話ですから。身に危険が迫っていても、知らずに歌いつづける。みんなと同じなら安心。こんな心理を見事に表現する谷川俊太郎ってすごいなと、黙示録のような上條さんのスキャットを聞きながら考えていたものです。

そんなわけで個人的には『メトロポリタン』や『まっくら森』よりこの曲が怖いのですが、こんな正真正銘怖い曲を取り上げると番組が重くなりすぎるのでスルーされたのは賢明な判断だったといえるでしょう。他のみなさんがどんな曲をあげてらしたのか、知りたいところではありますね。

なお、この詩には林光さんの他、三善晃さんや平吉毅州さんも曲をつけてらっしゃいます。それだけ、創作意欲を刺激する作品なのでしょう。

『空に小鳥がいなくなった日』
作詞:谷川俊太郎
作曲:林光
うた:上條恒彦、シンガーズ・スリー
初回放送:1972年6、7月

【追記】
るんるんさんからの情報によると、テレビでは土曜日のうたとしてロングバージョンで放送されていたようです。テレビの映像も見たいものですね。

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コメント

この歌は聞きました

後に何回か「みんなのうた」に出演する上條の初出演(当時は「木枯し紋次郎」のテーマで名を売ってたな)、そしてこの時期は異例中の異例である5分バージョン、どんな歌かと聞いてみれば、その歌詞は何とも辛く、そして忌々しい。「獣がいなくなった日」・「魚がいなくなった日」・「子供がいなくなった日」に、「ヒト」という名の大人は建造物を造るという、人間、それも大人の身勝手さをこうも歌った、「みんなのうた」の中でも変わった歌です。

歌の中、シンガーズ・スリーのスキャットが何とも言えない雰囲気を作り出してました。シンガーズの「みんなのうた」出演は、前に再放送した「春をよぶ夢」、「発掘SP」で放送した「ながいなさんとはやいなさん」と、そしてこの曲だけ(バックコーラスだけはこの曲のみ)、前2曲が明るめなのに比べると、何とも異質な歌声です。

投稿: マーチャン3 | 2015年7月28日 (火) 23時50分

追加。同時期に放送された曲はこんなのでした。
*トランペット吹きながら(前再放送してたね。「Nコン」曲)
*ふるさとのヨーデル(「発掘SP」でやってた。この曲知ってる)
*待ちわびブルース(吉良敬三の初映像担当)
*はつ夏の潮騒(今やってるぞ!!)
*ふるさとは土佐(「寒太郎」リバイバル版前にもサブちゃんが歌ってた)
*草競馬(レコードで聞いた)
既に再放送されたのが結構ありますね。

投稿: マーチャン3 | 2015年7月28日 (火) 23時56分

マーチャン3さん

いつも情報ありがとうございます。なるほど、上條恒彦さんのみんなのうた初登場の作品なんですね。レコードではこれ以前の作品も吹き替えでうたってらっしゃいますので気がついてませんでした。ありがとうございます。

おそらく初のロングバージョンということでNHKもずいぶん力を入れて制作したんじゃないかと想像しています。映像がどんなのだったか気になりますが、テーマが重いこともあって反応としてはイマイチだったのかもしれませんね。ロングバージョンがその後四半世紀に渡って封印されたところをみるとNHKにとってトラウマとなったのかもしれません。1997年に『イレアイエ』が人気を博したあと、続々とロングバージョンが作られたのと対照的ですね。

投稿: くじょう | 2015年7月30日 (木) 23時27分

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