震災時の獲得パニック
後期は集合行動論の授業があって、パニックや暴動、流言やうわさ、災害時の行動、社会運動について解説をしていきます。毎年やってる授業なのですが、今年はどうしても震災時の出来事を念頭において話をすることになりますね。
前回はイロコイ劇場の脱出パニックや、石油ショック時のトイレットペーパー獲得パニック、《宇宙戦争》のラジオドラマ放送時の情報パニックの事例を紹介した後、受講者に震災時の獲得パニックについて、自分が見聞した事例を報告してもらいました。何かの参考になるかもしれませんので、内容をまとめたものを紹介しておきましょう。
主に東京における震災直後から1週間程度の期間についての報告です。スーパーやコンビニから物がなくなっていたという報告が多数寄せられています。スーパーでバイトしていた学生によると震災翌日の朝は1時間で水が売り切れ、午前中にはラーメンやスナックなども売り切れていたようです。レジには見たこともないような行列が並び、食パンは焼いても焼いても棚に並べる前になくなっていきました。
店内はすごい人で押しつぶされそうで、小さい子供が迷子になることも。人が殺到して危険なので店を閉めたところもあったようです。店員にいつ入荷するのか何度もきく人、在庫はないのかと詰め寄る人、水を配るタンクローリーに詰め寄る人‥。相当殺気立っていたようですね。
普段使うものがなくなり困ったという報告も沢山ありました。卵、納豆、天然水はいうに及ばず、食材がなく停電で痛まないうちに生のうどんを食べたらまずかったという報告もありました。うちは買い置きがあるので気づかなかったのですが、トイレットペーパーもなくなっていたようですね。おむつや生理用品も不足していたようです。コンビニのトイレには「トイレットペーパーを取らないで」という張り紙も見られました。トイレットペーパーパニックの再来です。
西日本の実家や親戚からインスタント食品やトイレットペーパーを送ってもらった人も何人かいました。災害時には「遠くの親戚より近くの他人」という言葉がありますが、物不足に関しては遠くの親戚が頼りになります。こういうサポートがあるとないとではだいぶ対応が違ってきそうです。物がないので実家に帰った人もみられました。
こんな風に、物がなくなって不安にかられた人も沢山います。商店に食べ物が並んでなくて不安になった人、スーパーをはしごして電池や携帯の充電器を手に入れた人。今回は放射能についての不安が追い打ちをかけました。放射能に注意を促すメールもずいぶん出回っていたようです。ミネラルウォーターを求めたり、外出を控えて家にこもっていた人も多いようです。その分、買い物に出たときには多めに買いだめをする行動もみられました。母親が一生懸命レトルト食品や水を買いだめしていたという報告も複数あります。
その一方で、自分は買わなかったという人も割りと見られました。他の人のために自分は必要最低限だけ買った、買いだめしないで落ち着くのを待っていたという報告、皆が慌てているのをみるとかえって冷静になったという人もいたようです。普段から買い置きをしていた人は比較的冷静であったようです。非常食、トイレットペーパー、ティッシュ、ガソリン。ガソリンの買い置きは微妙ですけど、トイレットペーパーやインスタント食品は普段から多めに買っておいて、つかった分を補充しておくといざというときに慌てなくてすみます。品不足が解消した現在、買い置きを進めると内需の拡大にもなっていいかもしれません。
獲得パニックは一般に、
買いだめ→品不足→不安→買いだめ→‥‥
という悪循環によって生じます。今回の震災時獲得パニックでもこのサイクルが明瞭に見られますし、震災による供給力の低下や流通の混乱が品不足に拍車をかけていた側面もあります。そして、供給力の低下で品不足になるだろうなという予測や放射能に関する情報が不安をさらに高めた部分もあるでしょう。悪条件が重なって大規模な獲得パニックが生じたと考えられます。対策としては、品不足が不安に直結しないように、ある程度物資を備蓄しておくことが必要ですし、いざというときに物を融通しあえるような社会的なつながりを確保しておくことが有効でしょう。
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