2011年10月 6日 (木)

震災時の獲得パニック

後期は集合行動論の授業があって、パニックや暴動、流言やうわさ、災害時の行動、社会運動について解説をしていきます。毎年やってる授業なのですが、今年はどうしても震災時の出来事を念頭において話をすることになりますね。

前回はイロコイ劇場の脱出パニックや、石油ショック時のトイレットペーパー獲得パニック、《宇宙戦争》のラジオドラマ放送時の情報パニックの事例を紹介した後、受講者に震災時の獲得パニックについて、自分が見聞した事例を報告してもらいました。何かの参考になるかもしれませんので、内容をまとめたものを紹介しておきましょう。

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主に東京における震災直後から1週間程度の期間についての報告です。スーパーやコンビニから物がなくなっていたという報告が多数寄せられています。スーパーでバイトしていた学生によると震災翌日の朝は1時間で水が売り切れ、午前中にはラーメンやスナックなども売り切れていたようです。レジには見たこともないような行列が並び、食パンは焼いても焼いても棚に並べる前になくなっていきました。

店内はすごい人で押しつぶされそうで、小さい子供が迷子になることも。人が殺到して危険なので店を閉めたところもあったようです。店員にいつ入荷するのか何度もきく人、在庫はないのかと詰め寄る人、水を配るタンクローリーに詰め寄る人‥。相当殺気立っていたようですね。

普段使うものがなくなり困ったという報告も沢山ありました。卵、納豆、天然水はいうに及ばず、食材がなく停電で痛まないうちに生のうどんを食べたらまずかったという報告もありました。うちは買い置きがあるので気づかなかったのですが、トイレットペーパーもなくなっていたようですね。おむつや生理用品も不足していたようです。コンビニのトイレには「トイレットペーパーを取らないで」という張り紙も見られました。トイレットペーパーパニックの再来です。

西日本の実家や親戚からインスタント食品やトイレットペーパーを送ってもらった人も何人かいました。災害時には「遠くの親戚より近くの他人」という言葉がありますが、物不足に関しては遠くの親戚が頼りになります。こういうサポートがあるとないとではだいぶ対応が違ってきそうです。物がないので実家に帰った人もみられました。

こんな風に、物がなくなって不安にかられた人も沢山います。商店に食べ物が並んでなくて不安になった人、スーパーをはしごして電池や携帯の充電器を手に入れた人。今回は放射能についての不安が追い打ちをかけました。放射能に注意を促すメールもずいぶん出回っていたようです。ミネラルウォーターを求めたり、外出を控えて家にこもっていた人も多いようです。その分、買い物に出たときには多めに買いだめをする行動もみられました。母親が一生懸命レトルト食品や水を買いだめしていたという報告も複数あります。

その一方で、自分は買わなかったという人も割りと見られました。他の人のために自分は必要最低限だけ買った、買いだめしないで落ち着くのを待っていたという報告、皆が慌てているのをみるとかえって冷静になったという人もいたようです。普段から買い置きをしていた人は比較的冷静であったようです。非常食、トイレットペーパー、ティッシュ、ガソリン。ガソリンの買い置きは微妙ですけど、トイレットペーパーやインスタント食品は普段から多めに買っておいて、つかった分を補充しておくといざというときに慌てなくてすみます。品不足が解消した現在、買い置きを進めると内需の拡大にもなっていいかもしれません。

獲得パニックは一般に、

 買いだめ→品不足→不安→買いだめ→‥‥

という悪循環によって生じます。今回の震災時獲得パニックでもこのサイクルが明瞭に見られますし、震災による供給力の低下や流通の混乱が品不足に拍車をかけていた側面もあります。そして、供給力の低下で品不足になるだろうなという予測や放射能に関する情報が不安をさらに高めた部分もあるでしょう。悪条件が重なって大規模な獲得パニックが生じたと考えられます。対策としては、品不足が不安に直結しないように、ある程度物資を備蓄しておくことが必要ですし、いざというときに物を融通しあえるような社会的なつながりを確保しておくことが有効でしょう。

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2011年6月19日 (日)

阪神の三分の一

>被災地でのボランティア減少に歯止めがかからない。震災後の3カ月間に岩手・宮城・福島の3県で活動したボランティアはのべ約42万人で、同時期に約117万人が活動した阪神大震災の約3分の1。「もはや関心は風化したのか」という嘆きも聞こえてくる。

>各県のまとめでは、5月の大型連休には1日に1万人以上のボランティアが集まった。だがこれがピークで、その後は一貫して右肩下がり。震災3カ月の節目にやや上向いたが、学生ボランティアが増えると見込まれる7月まで再び減少傾向が続くと見られる。

>「ボランティアが足りません」。6月上旬、岩手県で活動する「遠野まごころネット」のメンバーは東京・中野でチラシを配った。だが被災地の写真パネルの前で足を止める人はまばら。「もう風化?」。事務局の佐々木祐季さん(25)はショックを受けた。連休後に訪れるボランティアはピーク時の3分の1。「今後は仮設住宅に移った被災者の心のケアも必要なのに。このまま先細りさせるわけにはいかない」

>ボランティア不足の背景には、現地へのアクセスの難しさがある。大都市で起きた阪神大震災と違い、今回の被災地は都市部から遠く、広い。宿泊施設のない集落も多く、安全面からテント設置や車中泊を認めない自治体も多い。(asahi.com)

まあ、何事も三ヶ月たつと関心は薄れるんですよね‥。これからはボランティアも義援金も減る一方でしょう。本当はそれまでにたくさんボランティアに来てもらえるようにするべきだったのですが、余りに被害が大きくてボランティアにも容易にいけない状況だったのが残念です。

それにしても、阪神の三分の一しか入ってなかったとは知りませんでした。阪神のときは1月から3月まで学生が春休みだったのが大きかったですね。4月になるとサーっと帰っていったものですが。

今回は春休みがすぐに終わった上に、直後には現地に入らないようにという呼びかけもあって少ないだろうなとは思ってましたが、三分の一だったとは‥

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2011年6月11日 (土)

海浜幕張付近

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液状化を起こしたあとがまだこんな感じですね。傾いて営業を停止している店舗もいくつかありました。応急処置はしてあるものの修復工事がいつになるのかはわからないようです。

まだまだこんなもんじゃないところが一杯ありますしね。

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2011年4月13日 (水)

億テラベクレル

 「おばちゃん、これなんぼ?」

  「3億万円!」

駄菓子屋のおばちゃんが口にしそうな単位ですね、「億テラベクレル」というのは。1テラベクレルは1兆ベクレルですから、1億テラベクレルは「1億兆ベクレル」となります。 兆の次が京(けい)、その次が垓(がい)なので1垓ベクレルといってもいいのですが、それでは全然実感が湧きません。駄菓子屋のおばちゃん風に「1億兆ベクレル!」と言った方がインパクトがあるでしょう。

こんな普通では登場しない単位が出てくるところにも原発事故の厄介さが現れています。福島第一原発、1号機から3号機の炉心に震災当時存在した放射性物質の量が6.4億テラベクレルなのだそうです。放射性ヨウ素にして13kg、他の放射性物質が混じるともっと重くなりますが、それだけの放射性物質が炉心にあった計算になりますね。

ちなみに6シーベルトが致死量とするとざっと3億ベクレル(300メガベクレル)の放射性ヨウ素が体内に入ると致死量になる計算になります。6.4億テラベクレルは、単純計算で2テラ人(2兆人!)の致死量に相当します。まあ、体内被曝の致死量は6シーベルトよりもっと多いらしいので2兆人も死なないかもしれませんが、それでも人類を絶滅させるには多分十分な量でしょう。

それだけの放射性物質がどの原発にももれなく封じ込められていると思うと、ぞっとしますね。まずめったに外部には漏れないとしても物騒な話です。東電もそんな数字は表に出したくはなかったはずですが、事故規模のレベル7への引き上げにともなって「それでも100分の1程度しか外部には漏れていない」という文脈で公表することにしたようです。

ただ、6.4億テラベクレルの100分の1というと640万テラベクレルで、チェルノブイリ事故で大気中に放出された520万テラベクレルよりも多量の放射性物質が放出されていることになります。多分、地下に大量にたまっている水の中に大半が漏出していて敷地外にはあまり出ていないのでしょうけど、これらの水が漏れ出すことになっては大変です。やはりすでにチェルノブイリに匹敵する事故になっていると言わなければならないでしょうね。

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2011年4月 2日 (土)

余震推移(4月1日まで)

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久しぶりに余震推移のグラフを作ってみました。

震度5強の余震がまだあって油断はできないのですが、全体としては沈静化に向かっているようです。頻度の合計を対数変換したグラフを見ると、ゆるやかな減少の時期であったものが31日ごろからもう一段階頻度の下がった時期にシフトしつつあるようにみえます。地震だけにグラフは上下に震動していますが、傾向としてはようやく沈静化といえるでしょう。

日数から0.9を引いた値の対数を横軸に、頻度の対数を縦軸にとった大森公式のグラフでも、公式の予想通りの沈静化のプロセスが進行していることが伺えます。ただ31日、1日の水準は大森公式の予測よりはかなり低い水準なので、もう一度頻度上昇の揺れ戻しがあるかもしれません。ひところのようにしょっちゅう余震が起こるようなことはないと思いますが、震度5程度の揺れはしばらくは起こる可能性があると思われます。

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2011年3月24日 (木)

余震推移(23日まで)

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昨日はいわき市で震度5強が3回もあってびっくりしました。震源が内陸で浅かったこともあって大きく揺れたようです。原発の復旧作業に影響がなかったか気になります。

震度3以上の余震の合計数(1時間あたりの頻度の対数値)を示した2つめのグラフをみても、23日は余震の回数自体が多かったことがわかります。両対数をとってプロットした3つめのグラフからも、大森公式の傾向より増加傾向にあるようにみえます。ここにきて大森公式から逸脱してきているのでしょうか。

このまま回数が増える傾向が続くのかまた落ち着いていくのかはわかりませんが、増える傾向が続く可能性はあると考えておいた方がよいでしょうね。

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2011年3月23日 (水)

セシウムは0.013をかける

かなり高濃度の放射性セシウム137が茎立菜(くきたちな)などから検出されています。セシウム137の場合の実効線量係数をおさらいしておきますと 0.013μSv/Bq となっています。これは1Bq(べクレル)のセシウム137を口から食べた場合に、人体が受ける通算のダメージ(預託実効線量といいます)をμSvを単位として表した値となります。 したがって、放射性セシウム137の量を示すべクレル値に0.013をかけると、それを口から食べたときに人体が受ける通算ダメージがわかります。たとえば今回見つかった茎立菜1kgあたり82000べクレルの場合、この野菜を100g食べると8200べクレルのセシウム137が体内に入ります。これによるダメージは係数をかけて 8200×0.013=106.6μSv と求めることができるわけですね。 原子力安全委員会は年に5mSv(5000μSv)を年間限度量としているようですから、毎日このくきたちなを100gずつ食べると 5000÷106.6=46.9日 で年間限度量を越える計算になります。まあ、毎日100g食べたりする作物でもないかもしれませんが、以上の方法で他の作物についても測定されたべクレル値から人体の受けるダメージを自分で計算することができますね。 ただしこれはセシウム137の場合で、ヨウ素131の場合は0.022をかけるとμSvに換算できます。ヨウ素131は半減期が短いのでまだましですが、セシウム137の半減期は30年もあるので気が重いです。

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2011年3月20日 (日)

ベクレルをシーベルトに換算するには?

毎日原発のニュースを見て、シーベルト(Sv)という単位にはかなり慣れてきましたけど、野菜から放射性物質が検出されたニュースではベクレル(Bq)という別の単位が登場してきました。シーベルトは人体への影響という点から評価した放射線量を表す単位で、10mSv(ミリシーベルト)ぐらいが一般の人の許容範囲で、100mSvが放射線を扱う仕事をする人がそれ以上浴びないように気をつける放射線量の目安になっているようです。

一方、ベクレルは放射線を出す放射性物質の量を示す単位で、1秒間に1個の原子核が崩壊してα線かβ線かγ線かのなんらかの放射線を出す放射性物質の量が1ベクレルです。野菜1kgあたり24000ベクレルの放射性ヨウ素131が検出された、といった報道で使われています。このベクレルをシーベルトに換算できれば、せっかく勉強したシーベルトの知識が使えるのでちょっと調べてみました。

結論から言うと、ベクレルの値に「実効線量係数」という値を掛ければベクレルをシーベルトに換算できます。これは放射性物質の種類ごとに異なる値をもつ係数で、たとえばこのページ(http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html)に一覧表が載っていました。このページの表によると、ヨウ素131(I-131)の実効線量係数は2.2×10の-8乗となっています。言い換えるとベクレルの値に0.000000022をかければシーベルトに、0.000022を掛ければミリシーベルトに、0.022をかければマイクロシーベルトに換算できます。

したがって、1kgあたり24000ベクレルの野菜を100g食べると

   2400ベクレル×0.022=52.8マイクロシーベルト(μSv)
 
の放射線量を浴びる計算になります。ちなみに上記のページによるとこの係数は大人は50年、子供は70年の積算値だそうなので、上の野菜を100g食べた後50年にわたり人体が浴びる放射線量の合計が52.8μSvとなるようです。

この計算が正しいとすると一般の人の許容範囲10mSv(=10000μSv)の放射線量を浴びることになるのは上記の野菜を

   100g×10000÷52.8=18.9kg

食べたとき、ということになりますね。毎日100gを189日、半年ほど食べ続けると許容範囲をこえることになりそうです。

これは、ヨウ素131の場合ですが、セシウム137の場合の実効線量係数は1.3×10のマイナス8乗で、セシウム137のベクレル値に、0.000013を掛けるとミリシーベルトに、0.013を掛けるとマイクロシーベルトに換算することができます。当面、ニュースに出てくるのはこの二物質だと思いますが、他の放射性物質についても上記のページの表にある値を使えば換算することができます。

(実効線量係数の算出についてはhttp://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-04-02-03を参照。モンテカルロシミュレーションで求めるらしいです)

(ここで求められるシーベルト値は預託放実効線量値を示します。預託実効線量の詳細は http://search.kankyo-hoshano.go.jp/food2/Yougo/yotaku_jikkou_syousai.html を参照ください)

【関連記事】

 テラベクレル

 放射性ヨウ素3万テラベクレルは約6.5グラム

 セシウムは0.013をかける

 億テラベクレル

 

 

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2011年3月13日 (日)

震災流言について

関東大震災の昔から災害時には流言やうわさがつきものですが、今回はチェーンメールやチェーン日記という形で流れるケースも見られていますね。ここで震災流言について簡単におさらいしておきたいと思います。

オルポートの分類によると流言(主に社会的な事柄について語られる特に根拠のない真偽不明のうわさ)には、人を怖がらせる恐怖流言、こうなって欲しいという願望を語る願望流言、誰かの悪口をいう分裂流言の3通りがあります。震災時にもこの3通りの流言が見られますが、余震や略奪、レイプなどに関する恐怖流言や分裂流言が特に多く流れるようです。

関東大震災では「横浜が水没した」「いついつに大きな余震がある」「囚人が脱走した」「井戸に毒を投げ込んでいるものがいる」といった恐怖流言や分裂流言が流れていました。あるいは火山の噴火時に「避難したあとに窃盗団が入り込んでいる」という流言が流れた事例もあります。今回の地震では余震の他に放射能や有害物質など恐怖心をもたらす題材が数多くありますので、それらについてのチェーンメールがすでに流れているようです。

流言とデマは同一視されることが多いのですが誰かを欺くことを目的として悪意を持って流されるデマと違って、流言の方は役に立つ情報を伝えたいという基本的には善意によって伝達される点が違うといえるでしょう。それゆえ流言には聞いた人が「本当のことだ」と思って「流す必要がある」と感じるような<信憑性>が備わっていることが多いです。

具体的には、警察や役所、あるいは「○○につとめる友人」からの情報だ、という形で権威付けされていることが多くあります。今回も「関西電力が」とか「厚労省が」といった形の出所が付与されているチェーンメールが出回っているようです。また状況を具体的に詳細に語っている情報を人は信用しやすいのですが、流言もこのような形で具体的な細部が付与されると伝達力が増すことが知られています。

こうした「権威付け」や「具体化」、あるいは他の情報との整合性をとる「つじつまあわせ」が行われて<信憑性>を獲得した流言が広く伝わる傾向があるといえます。震災時には情報の不足がおきがちですので、こうした<信憑性>のある流言が情報の不足を埋める形で流通しやすくなるといえるでしょう。

そんなわけで、妙に具体的だったり、権威付けやつじつまあわせがなされている情報に出会ったらすぐにコピペして拡散する前に少し立ち止まってどの程度根拠のある情報なのか確認してみることが大事でしょう。

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