2012年初年度調査(2012年4月実施、男性284人、女性147人、計431人)では「日頃から、何か社会のために役立ちたいと思っている」という質問文で社会貢献意識について測定しています。今年については「そう思う」が50%、「そう思わない」が16%、「どちらともいえない」が34%という結果になっています。
この「そう思う」の割合は2010年4月調査では42%、2011年4月調査では51%でしたから、震災後9ポイント上昇した後、今年も昨年の水準を維持しているようです。中間選択肢の「どちらともいえない」がある条件で質問してなおかつ「そう思う」という人が50%いるというのは、かなり社会に貢献しようという意識が高いといえるでしょう。
では、この社会貢献意識はどのようにして形成されるのでしょうか。また、具体的にはどのような社会貢献行動と関連を持つのでしょうか。今年の調査から、社会貢献意識と有意な相関のあった質問項目をピックアップしてパス解析を行ってみました。
図のように「初対面の相手でも信頼する方だ」(初対面)、「自分の出身中学や出身高校を誇りに思う」(誇り)、「自分たちの名誉が侮辱されることは、我慢できない」(名誉侮辱)、政治に関心がある(政治関心)、「身寄りのないお年寄りを見ると、かわいそうになる」(お年寄り)といった質問がプラスの効果を持ち、「給料が同じならば、必要以上には働きたくない」(給料同じ)がマイナスの効果を持っています。
最もパス係数が大きいのは「お年寄り」で高齢者への共感を測定する質問項目です。社会貢献意識が社会的に弱い立場の人に対する共感に根ざしている可能性をしめす結果といえるでしょう。次が「出身校への誇り」です。自らが所属する集団を肯定的に評価し自信を持つことが社会貢献意識を高めるようです。
「名誉侮辱」も社会貢献意識にプラスの効果を持っています。この質問は権威主義的攻撃性を測定する項目なのですが、権威主義的服従性(上下のけじめは必要など)や偏見(弱者と強者がいるなど)といった他の権威主義指標は社会貢献意識と相関をもっていませんので権威主義的な側面よりも自分の所属集団に誇りを感じる側面が社会貢献意識に寄与しているのかもしれません。
あと「政治関心」と「初対面信頼」もプラスの効果があります。「政治関心」は社会への関心の代理指標と解釈できるでしょう。社会への関心が社会貢献意識を高めるようです。「初対面信頼」は人間一般への信頼で、人間一般を信頼する人は不信感を持つ人より社会貢献意識が高くなるのでしょう。
「給料同じ」は個人的な合理性の指標です。職場の他のメンバーにとってプラスになる作業があっても給料が変わらないのであればやりたくないと解釈すれば、個人合理性を所属集団への配慮より優先する態度と捉えることもできるでしょう。この項目はマイナスの効果を持ちますので、個人合理性を優先すると社会貢献意識が低くなると考えられます。
このように、社会的に弱い立場の人に対する共感や社会全体への関心、人間一般への信頼といった広い意味で社会を肯定的に捉える態度と、自らの所属集団への誇り、さらに個人的な合理性を重視しすぎないことが社会貢献意識を形成するといえそうです。
社会貢献意識が高い人は社会に対してどのような行動をとるのかという行動レベルの質問項目が「寄付」と「街頭募金」です。「寄付」は「社会に役立つ活動に寄付する機会があればどの程度寄付したいか」を一ヶ月あたりの金額できいたもので、月430円ほどが平均値でした。「街頭募金」は「街頭募金にはなるべく協力する」かどうかをきいたもので「する」が26%、「しない」が45%、「どちらともいえない」が29%でした。社会貢献意識の高さに比べて行動レベルの質問には消極的な回答が多くなっています。
社会貢献意識と「寄付」には0.21の相関、「街頭募金」には0.41の相関がありました。いずれも有意な相関なのですが、パス解析をすると社会貢献意識から「寄付」へのパスは有意となりませんでした。代わりに「お年寄り」「政治関心」「初対面信頼」「給料同じ」からのパスが有意にきいています。社会貢献意識と寄付意図金額との相関はこれらを介した偽相関だったようですね。興味深いのは寄付意図金額には「誇り」「名誉侮辱」といった所属集団への誇りの変数からのパスがないことで、寄付意図金額の方がより純粋に社会全体への関心や立場の弱い人への共感を反映しているといえるでしょう。
「街頭募金」には社会貢献意識をはじめとして「寄付」「お年寄り」からのパスが有意でした。街頭募金への協力には社会貢献意識が直接反映しているようです。さらに寄付意図金額が大きいことや立場の弱い人への共感という要素がプラスされると実際に街頭募金に協力するようになるという構図が存在するようです。
以上のように、社会貢献意識は社会全般に対する関心や信頼、自集団に対する誇り、個人合理性の抑制によって形成され、すくなくとも街頭募金への協力という形で実際にコストを伴う貢献行動を促進することを示す結果が得られました。
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