2010年3月 2日 (火)

一般信頼の規定要因:31カ国の多水準分析 (Paxton 2004)

WVS(世界価値観調査)のデータを用いて、一般信頼の規定要因を調べた論文がいくつか見つかりましたのでぼちぼち読んでいます。Paxton 2004は組織参加の効果に着目して分析した論文です。どうも完成版ではなくて、ドラフト(草稿)のようなのですが、それなりに面白い結果なので紹介してみましょう。

データは1991年前後に実施されたWVS第2波のものが用いられています。アルゼンチン、オーストリア、ベルギー、ブラジル、ブルガリア、カナダ、チリ、中国、デンマーク、西ドイツ、東ドイツ、エストニア、フィンランド、フランス、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、ラトビア、リトアニア、メキシコ、オランダ、ノルウェイ、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、アメリカの31カ国について、一般信頼の有無(たいていの人は信頼できると答えるか否か)が、個人レベルの変数(教育年数や組織参加など。収入、所得などは含まれていない)と国レベルの変数(民族的な均一性、社会組織への参加率など)を用いて予測されました。

その結果、個人レベルの変数で効果があったものは、教育年数、年齢、離婚経験、組織参加で教育年数は長いほうが、年齢は高いほうが高信頼となっています。ちなみに、日本のデータで分析すると20代と60、70代で高信頼、30、40代で低信頼となるのですが、世界的にみると年齢が高いほうが高信頼になるようです。

離婚経験は顕著に一般信頼を下げるようで、平均して6ポイントほど一般信頼が下がるという推計が紹介されていました。もちろん、人によって事情も影響もさまざまでしょうけど、全体としては人間不信を高める要因になるようです。

組織参加は他の組織とのつながりが薄い孤立型の組織(スポーツ団体や宗教団体など)と、他の組織とつながりが大きい橋渡し型の組織(地域団体、ボランティア団体など)にわけて、影響が推定してあります。その結果、いずれのタイプの組織参加も一般信頼を高める効果があること、そのなかで橋渡し型の組織に参加することが特に高信頼をもたらすことが明らかにされています。

次に国レベルの変数で効果がみられたのは、民族的な同質性、「東欧の国」であること、組織の参加率の3つでした。民族的な同質性はその国でもっとも人数が多い民族がその国の人口に占める割合で測定されています。同質性が高い国ほど一般信頼が高く、異質性が高い国ほど一般信頼が低くなるようです。同質性の高い国で高くなる信頼は同民族に対する信頼になるわけで、それが果たして「一般信頼」なのかという問題はありますが上記の「たいていの人は信頼できると思いますか」という質問で測定した結果は、同質性が高い国ほど「はい」と答えるという結果になるようです。

「東欧の国」というダミー変数は他の変数に還元しにくい苦肉の変数なのでしょうけど、これは顕著意一般信頼を下げる効果を持つそうです。ロシアの場合、ソ連崩壊の直後に一般信頼が急落しているのですが、東欧の国々でも体制変化直後の混乱期には人間に対する不信が高まったのでしょうか。

「組織への参加率」は、橋渡し型の組織と孤立型の組織では利き方が逆になっています。橋渡し型の組織の場合は、参加率の高い国の方が一般信頼の水準が高くなるようです。これは個人のレベルと同じ向きなのでそんなに不思議な話ではありません。ところが孤立型組織の場合は係数が負、つまり孤立型組織への参加率が高い国ほど一般信頼の水準が低くなっているようです。論文では代表的な孤立型組織の例として宗教団体やスポーツ団体が挙げられていますが、これらの団体では内部の結束は堅いのですが外部とのつながりは弱い傾向があります。それゆえ、孤立型組織への参加率が高い国は一般信頼が低くなるのだろうと論じられています。

それはそうかもしれませんが、個人のレベルでは孤立型組織であっても参加する人は参加しない人よりも一般信頼が高いわけですから、話はそんなに簡単なわけではありません。個人レベルの効果と国レベルの効果で向きが逆になるというのは何らかの合成の誤謬が起こっていることを意味しています。たとえば、孤立型組織が内部のメンバーの一般信頼を高める一方で、外部のメンバーの一般信頼をさげるという「負の外部性」を持っているならば、個人レベルで信頼を高めつつ国レベルでは信頼を下げるという現象が起こる可能性があります。本当にそんなことがおきているのかどうか、さらに詳しく調べてみる必要がありますが、興味深い結果ではありますね。

ちなみに孤立型組織の効果は山岸先生の「安心が信頼を破壊する」というお話に似てはいますが、山岸先生の理論では安心が信頼を下げるのは同じ個人についてのことと想定されていますので、其の点で違いがあります。上記のようなことが起こっているとすると、孤立型組織が提供する安心は周囲の信頼を破壊することになりますのでさらに厄介な話だといえるでしょう。いずれにしてもこの分析に再現性があるのかという点を含めて要検討だと思われます。

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2008年9月 9日 (火)

「R」始動!

とりあえず、Rを使ってこんなのが書けるようになりました。

Photo

データは、学力マップで使った国語と算数のテストの都道府県別平均点です。これをCSV形式で保存したものを

  x <- read.csv("test.csv")

というコマンドで読み込んで

  pairs(x)

という、散布図作成のコマンドを実行すると、このような各変数の散布図が一気に書けます。変数を選ぶ時には

  pairs(x[2:4])

みたいにすると2番目から4番目の変数について散布図を書いてくれるようです。とりあえずはなかなか簡単ですね。

図をみると科目間の相関は高い一方で、都道府県人口との相関はほとんどないようです。ためしに、

  cor(x)

というコマンドで相関係数を求めてみると、

          人口 . 国語A  国語B  算数A  算数B
人口.2005年    1.00   -0.07    -0.03    -0.14   0.15
国語A           -0.07    1.00     0.90      0.93    0.84
国語B            -0.03    0.90    1.00      0.84    0.93
算数A            -0.14    0.93    0.84      1.00    0.82
算数B             0.15    0.84    0.93      0.82    1.00

となりました。人口との相関はやはりないようです。科目間の相関では算数Aと算数Bが一番低い(それでも0.82ありますが)のが面白いですね。

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2006年9月11日 (月)

人間の社会性の文化的・適応的基盤

北大のCOEで企画された上記のセミナーに行ってきました。協力やサンクションの進化や制度と文化の相互作用など盛り沢山の発表、講演が沢山あって非常に勉強になりました。麻生近辺は坂がきつくて移動が大変だということもよく分かりました。関係者の皆様、お疲れ様でした。

個人的にはサンクションについての実験的研究や理論的研究、分配ゲームの発達的研究、社会的性格の遺伝についての研究について話が聞けたのが収穫でした。

サンクションの進化を説明するには弱い群淘汰モデルがおそらく必要ですので、学習による獲得だけでは不十分で遺伝的な基盤を持つことが必要条件になるのですが、具体的にどの程度遺伝するものなのかが分かったのはありがたかったです。

双子の研究によると社会的な性格については比較的遺伝的な成分は少なく、家庭環境の影響が大きいようです。それでもある程度の遺伝的基盤はあるようですので「不完全な遺伝」を仮定する遺伝ダイナミクスモデルが使えそうなことが分かりました。

とはいえ子供が育つ家庭環境の影響も大きいため、それがどのように効くのか発達的な研究も必要な訳ですが、その点についても分配ゲームを用いた実験的研究が行われつつあるのが興味深かったです。それによると、小学生の低学年は自己中心的な戦略を選ぶものの、中学年から高学年にかけて互恵的な戦略をとるようになること、自閉症の子の場合は過度に規範的な行動をとるようになる傾向が見られることが示されていました。

小学生の中学年から高学年にかけて、自己利益と社会規範とをすり合わせるような形で行動形成がなされていくらしいことを示す結果で非常に興味深かったです。これらの知見にこれまでの協力の進化についての知見をつなぎあわせていく形でモデル作りをしていく事が、今後のモデル屋としての課題であることだなあと思った次第です。

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2006年5月19日 (金)

研究会

今日は久しぶりに内輪の研究会で発表しました。授業のある期間はなかなか研究は進まないものですが、こういう機会があると多少は進められてありがたいものです。内容は社会的ジレンマにおいて協力行動が増加する条件を考察したもので、詳細は第二玉葉の方に掲載しておくことにしましょう。

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2006年3月16日 (木)

テキストデータマインニング

テキストデータマインニング(あるいは単にテキストマインニング)とは、文章のデータ(テキストデータ)を半ば数量化したうえで、探索的な統計分析を行うことです。アンケート調査の自由回答、顧客の注文やクレーム、ブログや掲示板の書き込みなどを分析して、意義のありそうな情報を抽出するのに用いられます。

具体的には、まずテキストデータに含まれるキーワードを抽出して出現回数や係り結びのパターンをカウントしていきます。どのようなキーワードを設定するのか、類似のキーワードをどのレベルで区別し、あるいは統合するのか、活用のある品詞の処理や文末の処理をどうするのか、といったことが実際の作業では大事になります。

文章ごとにキーワードの頻度表ができあがれば、サンプルの性年齢別やある製品やブランドの好き嫌い別などでキーワードの出現頻度を比較して、どのようなサンプルがどのようなキーワードを用いる(=どのような体験をしたり、どのようなイメージを持ったりしているのかを近似的にあらわす)のかを知ることができます。

また、異なるキーワードが同時に出現する頻度(共起性)を調べてキーワードを似たもの同士に分類したり、サンプルをいくつかのグループにクラスター分けすることも可能です。キーワードAとキーワードBの共起性の指標としては
    (AとBを同時に使った人の数)÷(AかBかどちらかを使った人の数)
といった値がよく用いられるようです。

この共起性に指標をキーワードの「近さ」だと考えて、多次元尺度構成法や数量化Ⅳ類を用いたり、あるいはキーワードの出現表を単に数量化Ⅲ類やコレスポンデンス分析にかけたりすればキーワードのマッピングが出来上がります。この結果を用いてサンプルをマッピングしたり、クラスター分析を併用してキーワードやサンプルのグループ分けをすることもできます。

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というわけで、テキストデータマインニングというのは大略このような分析をするみたいですね。SPSSから、一連の処理を実行するソフトが出ているようで、ブログの書き込みから、携帯キャリアのイメージを探ったり、どんな人がどのようなイメージを持つのか探ったりなんてことがそれを使えばできそうではあります。実際に実行するには、大量に書き込みを収集して整形したり、筆者の属性を推定したりといった手間がかかるのでそれはそれで大変そうではありますが、面白そうなテーマではあります。

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2006年2月17日 (金)

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの勉強

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの勉強をしました。製品や事業分野を、シェアと市場の成長率で4分割して分析する方法で1960年代に開発されたようですが、なかなか面白かったです。

  成長率
    ↑
    |花形商品    問題児
    |
    |金の成る木   負け犬
    |
    -----------→シェア

成長市場で高いシェアを占めてる商品が花形商品で、目立ちますが成長のための設備投資が必要であまり儲かりません。成熟市場で高いシェアを占めることができると、少ない設備投資で沢山売れますので金の成る木になります。

成長市場でシェアが低い商品は、てこ入れに成功してシェアを増やせれば花形商品になり、市場の成熟につれて金の成る木になるかもしれませんが、シェアを増やせないと負け犬になる可能性もある問題児です。成熟市場でシェアの低い商品は今後の発展性のない負け犬で、赤字がかさまないうちに撤収を検討する必要があります。PPM(ポート・フォリオ・マネジメント)

携帯業界では2G市場が成熟市場で3G市場が成長市場にあたると考えられますが、ドコモは金の成る木のポジションを抑えてその収益で問題児や花形商品に投資している構図といえるでしょう。auは花形商品を持ってますが、金の成る木のポジションにはまだなってないかもしれません。ボーダフォンは問題児の育成ができるかどうかが勝負ですが・・・。新規参入組みは他の市場で金の成る木を持ちつつ、携帯市場では問題児からのスタートということになりますね。

という訳で、単純な構図ですがいろいろ状況を整理して考えるには便利そうです。

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リーダーシップの勉強

昨日の続きでリーダーシップのお勉強。
部下の熟練に応じて教示的、説得的、参加的、委任的なリーダーシップを使い分けるのが吉。

リーダーシップ行動には指示的与える行動と人間関係を維持する行動の二次元があるが、部下の熟練度が低いときは、指示を中心とする教示的行動が必要。

部下の熟練度が上がってくると、指示を徐々に減らす一方、関係維持への配慮の方を増やして協同作業を行う説得的行動や参加的行動が有効になる。

部下が十分熟練すると、指示行動だけでなく関係維持行動も減らして仕事を委任することで部下のやる気を十分引き出すことができる。

大略こういうことみたいですね。部下の状況にあわせてリーダーシップ行動を適切に出し入れしていくことが有効みたいです。そんな気はしますが、実行するのは難しそうですね。

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2006年2月16日 (木)

組織論の勉強

今日は組織論のお勉強をしました。

企業組織の発展段階はおおむね

  非公式な分業
     ↓
  職能部門制組織
     ↓
  事業部制組織(事業本部制組織)
     ↓
  マトリックス組織・ネットワーク組織

となるとのこと。もちろん、すんなりこう進むとは限らなくて、組織内の主導権争いなどで進まないこともありうるが、こうした変革を遂げた組織は規模の拡大が可能になるらしい。

まあ、結果としてこういう図式になるような気はしますが、紆余曲折はありそうですね。マトリックスみたいな複雑な組織やネットワークみたいな不安定そうな組織は短命な気がします。実際の所どうなんでしょうね。

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2005年11月11日 (金)

図録▽米国の人口ピラミッド

アメリカと日本の人口ピラミッドの比較です。(図録▽米国の人口ピラミッド.)

アメリカは人種による違いが多いので人種別にすると次のグラフになります(人種別グラフ

非ヒスパニックのいわゆる白人のグラフは日本と類似していますが、白人では40才~45才が一番人口が多いベビーブーマー世代ですが、日本では50才~55才が団塊の世代となっています。

ベビーブームがアメリカでは10年遅く、第二次ベビーブームも同様に10年遅いので、少子高齢化という点ではアメリカは日本の10年遅れの状況のようですね。

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2005年11月 9日 (水)

ロス暴動と貧困層の拡大

>92429ロス暴動(L.A.Riot)勃発。黒人を殴打した白人警官無罪の評決一時間後に、ロス市内各地で不穏な動きが始まった。

>サウスセントラル地区で抗議デモ、29日深夜にはサウスセントラル地区を中心にロスは無法状態となる。ノルマンディ・フローレンス交差点では黒人の若者が通りがかりの車に投石を始めた。窃盗、傷害、略奪等の犯罪が連鎖的に広がり、市内は無法状態に陥った 火災が発生し、ハリウッド、ロングビーチ、カルバーシティ、サンフェルナンドヴァレー等の地域に焔の渦が巻き起こり、スーパー、小売店等がつぎつぎと燃え落ちた。

>3日後、暴動は鎮静化 死者がすくなくとも53人 負傷者約2400人 逮捕者1万5200人 被害総額10億ドル以上 他の都市にも暴動は波及 (ロス暴動と貧困層の拡大.)

フランス暴動との比較でアメリカの人種暴動をいくつかぐぐってみました。これは92年のロス暴動で期間は3日間と短いですが「死者がすくなくとも53人 負傷者約2400人 逮捕者1万5200人」と非常に大きな規模の暴動であったことがわかります。フランスは今のところ焼き討ちが主で死者、負傷者も一桁以上少なかったように思います。

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